けんてぃー大学

20代の国立大学職員による仕事のことその他関心があることの書き散らかしブログ

「世界大学ランキング2018日本版」に思うこと

2018年3月末に、「THE世界大学ランキング日本版2018」が発表されました。

THE世界大学ランキング 日本版|日本の大学の教育力ランキング

「THE世界大学ランキング 日本版2018」発表|株式会社ベネッセホールディングスのプレスリリース

 

これは、英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE)がベネッセをパートナーとして、調査・作成したものです。

京都大学東京大学が同率一位になっています。

 

f:id:kkenty:20180506123822j:plain

(50位までの順位:プレスリリースより)

 

世界版と日本版とがあるのですが、日本版では以下の4項目に基づいた評価がなされています。

1.教育リソース

2.教育充実度

3.教育成果

4.国際性

 

弊校は、私の想像より上位に位置していました笑

このランキングについて、所見を書いていきます。

 

 

1.世界版にも目を向けると

そもそもこの「日本版」は昨年の2017年より始まったものです。

これは、日本版でないものは毎年ずっと公表されていましたが、それが日本の大学の国内における評価項目としては望ましくないとの声が大きかったからでしょう。

世界版(World University Rankings 2018 | Times Higher Education (THE))では、以下の項目による評価がされております。

1.教育力

2.研究力

3.論文引用数

4.産業界からの収入

5.国際性

 

日本の大学はこのランキングでは東大が46位(前年39位)、京大が76位(前年91位)です。上位200位以内に入ったのは国内でわずかこの2校のみという悲しい結果です。

年々日本の大学は低下傾向にあり、それは日本の大学の伸びより遥かに早く他国(特にアジア)が伸びているからです。アジアでは東大が8位となっております。現在アジアトップを争っているのはシンガポール国立大学清華大学北京大学であり、日本はアジアトップ争いから大きく水をあけられてしまっているのが実状です。

 

なお、このランキングには下のリンクの記事のように、論文の引用数や外国人教員比率など、言語的な問題から日本の大学は不利だとの意見あります。イギリスの調査会社によるイギリス優遇ランキングだ、との意見も強いです。

世界大学ランキング、日本勢が振るわないのはナゼ?|ベネッセ教育情報サイト

大学の世界ランキングに意味はあるのか? | 山内康一

 

2.世界版との評価基準の違いから思うこと

さて、日本版と世界版の項目の違いとしては、

1.研究力

2.論文引用数

3.産業界からの収入

 

が世界版から除外され、教育力が重視されていると言えます。

日本の大学が教育を重視しており、国内世論としてもそのように見られているからでしょう。

 

ただ、個人的にはここで研究力が評価から除外されるのはいかがなものかと思います。

大学は教育機関だけでなく研究機関の役割も当然あります。そして教育機関としての日本の大学の現状は皆さんご存知のとおりです。

もちろん全てが全てではありませんが、遊び放けていても卒業できる、むしろ遊ぶのが大学生の本分だとでも言わんばかりの状況ですよね。

そして、大学でないと勉強できない、といった事もどんどん少なくなっています。

今の時代、既存の大学教育で得られる知識はほとんどが本やネットで得ることができます。もちろん大学で学ぶという事に「大卒・新卒カード」を得ること以外に意味がないとは言いませんが、4年間という時間とお金に対しての生産性は極端に低い(ところが多い)と思われます。

 

その中で、研究については、設備の充実、研究分野の権威たる教員の存在、有意義な資料の存在と、学生が大学に在籍することのメリットが多いと思われます。その分野における最先端を調べ、未知のものに挑戦する中でリサーチ力や仮説検証のノウハウを学べます。そして、論文にまとめる中で文章力や構成力を鍛えることになります。

大学でないとできない事、とも言えるこの研究を軽視することは個人的には有り得ない事です。

 

「産業界からの収入」が除外(≒軽視)されるということも、大学を持続可能にするために、ビジネスとして捉える感覚が低いように思われ、気になるところです。年々文部科学省からの国立大学の運営費交付金が減らされ、少子化による経営難が避けられないと見込まれる中で、この意識は非常に重要です。

 

企業との共同研究や受託研究を漕ぎ着け、外部資金を獲得していき、国税に頼りきっている大学・研究室の運営資金のバランスの健全化に取り組もう。そのために産業界(企業)が何をしたいか、求めているかを考え、提案していこうという、営業の当たり前の意識がある教員が果たしてどれだけいるのでしょうか。そういった意識付けを教員に浸透させ、研究資源の把握と管理、その活用の舵取りをしようという意識のある大学がどれだけあるのでしょうか。。

 

3.4つの基準と測定方法に思うこと

日本版ランキングの4つの基準について細かく見ていきましょう。

f:id:kkenty:20180506142454j:plain

上の表のような項目の測定方法となっているようです。

この中で私が違和感を感じるのが、「教育充実度」の算出が「高校教員の評判」という事です。

高校教員がどれだけ大学教育の実態を把握できているかは疑問です。特に、「入学後の能力伸長」を、高校教員が卒業生に対してどうやって把握に努めているのでしょうか。。

「教育成果」の項目算出で、「企業人事の評判調査」というのも個人的には違和感があります。企業の人事担当者たる人が果たしてどれだけ人物評価の能力があるかは疑問ですし、企業の組織の一員として高く評価される事が教育成果というのは、うーん、どうだろう、と思ってしまいます。

個人で活躍する人も当然いますし、そういう時代になりつつあります。人事担当者というよりは、何かしらの結果を出した人物の出身大学での評価ができればそれが良いように思います。

 

4.おわりに

以上、大学ランキングとその評価基準について取り上げてみました。

大学ランキングの意義や在り方は諸説ありますが、何かしらの評価基準をもってランキングする、というのは参考にするうえで必要なことでしょう。

しかし、研究成果や論文数などの客観的な基準を軽視され、評判や印象などという曖昧な主観的基準が重視される日本版ランキングは釈然としないものがありますね。